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国際協力、開発教育、貧困、メディアリテラシー、社会的企業、地域活性化などを、講義・ワークショップで学ぶ通年の市民講座。講師,ファシリテーターによる教材,手法,研修,セミナーの紹介。

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貧困‐見えていない社会、見ていない社会‐

講師:西澤晃彦氏【東洋大学教授】

豊かな国と言われる「日本」、その豊かな日本の中に隠された貧困の実態。日本のホームレス問題を通じて、貧困がなぜ生まれるのか、その根源を問うとともに、貧困の構造をどうしたら変えられるのかについて考えます。

【講義内容】

もともとは海外のことにご関心があり、ジョクジャカルタのスラムの調査などもされていたという西澤先生。それから、ご自分の足元を調査するうちにこの領域に広がったそうです。

講義では、ひとくちに「ホームレス問題」と呼んでいる対象が、野宿者の方々に限らず、水商売の方々、今定職についてない方々など、実際は見えない領域が広いことに気づかせていただきました。また、社会から徹底的に締め出されてしまう野宿者の方々をとりまく社会環境、またその隔離の過程が、住居と家族・職業によって国民を把握する明治維新後の改革からの流れを汲んでいること、その流れから非家族・非定住・非組織層を排除する社会構造が連綿と受け継がれているということを話していただきました。

非家族・非定住・非組織という層が増加しつつある昨今、この社会の、それらの層に対する排除のあり方がいつまで通用するか。わたしたちはどう考えるか、国家は、排除していた「例外」に対する例外法的措置をどこまでとっていくのか、という鋭い投げかけをしていただきました。

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【受講生の声】
・排除された人間、人間の選別・線引きって、何だろうと考え始め、それが前提・当たり前だと思う人たちが押し付けている結果なんだなと思った。そういった排除されていかざるを得ない社会を創ってしまう、線を引く、心理的な貧困でいうと、この社会こそが最も貧しいのではないかと思いました。

・うわべを取り繕うため、日本の構造や制度によって生まれた、日本の見えてない部分。本当に今まで私は見えていなかった。日本の制度には疑問や矛盾を感じた。講義を受けるたびに、他の国のことだけでなく、逆に日本の問題について考えさせられる。もっと見えてない部分を見られる人になりたい。

【運営委員より】
このテーマは毎年のアカデミアで恒例のテーマとなっています。
「貧困」というとアジアやアフリカの国々に目がいきがちですが、経済的には豊かなはずの、身近なところの「貧困」は場合によっては目に見えない形をとってしかも根深く、根強く存在している。

その存在を認識し、そして我々はこの「貧困」に対してどう関わっていけばいいか、という命題が、各受講者の皆さんの胸にも響いたと思います。限られた時間で、とても中身の濃い講義をしていただきました。

メディア‐発信する側の論理‐

講師:内藤陽介氏【郵便学者/切手の博物館副館長】

切手には発行国の政策やイデオロギーが反映されています。普段目にする切手や郵便から、発信する側が何を訴えようとしているのかについて知ることで、情報の受け手としてのあり方を考えます。

【講義内容】
この日の講義は、内藤先生が収集した切手を机にぎっしりと並べた状態で始まりました。切手を読み解いていくと、その切手が使われている地域、国を誰が支配しているかが分かるということを、今回は第2次世界大戦中のアジア各国の切手を見ながらお話していただきました。

戦争に向けてのプロパガンダが書かれた切手、敵国宛の手紙が返信されたことを示すスタンプが押された切手、中立を主張するために平和を望んでいるというメッセージを載せた切手、などなど。発行する側の意図がいろんな形で織り込まれていることを説明していただき、切手が持つメディアとしての役割に気付かされました。

また、切手の品質から当時の国の経済状況も知ることができる、ということも教えていただきました。最後には受講生どうしでディスカッションを行い、メディアの役割や切手から読み解けるたくさんの情報などについて、議論を交わしました。

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【受講生の感想】
・すべてのモノ・コトがあらゆるものを発信していることに改めて気付かされた気がします。

・「ものを通して歴史を見る」という視点が面白かった。

・どんなものにも歴史・バックグラウンドがあって、「メディア」として私たちに情報を発信しているんだと、気付かせてもらうことができた。でも、(中略)受け取る側の自分に知識がなかったり、正しく判断できなければ意味がないので、受信者としての自分をもって考えていなかなければ、と思った。

【運営委員より】
実際に使われていた切手を見ながらお話を聞くことができたのですが、これだけ多くのことが1枚の切手から読み解けるということがとても新鮮でした。

今回はメディアの1つの身近な例として切手を取り上げたわけですが、発行する側の意図がどのように織り込まれているかを学ぶことを通じて、新聞やニュースなどのメディアが伝えるものにも発信する側の意図が織り込まれていることに気付き、自分でその内容を吟味する力を身に付けることの必要性を実感しました。

国際化時代における多文化コミュニケーション

講師:ペマギャルポ氏(桐蔭横浜大学・大学院 教授/チベット文化研究所 名誉所長)

国際化という言葉だけが先行している感のある日本は、外国からどのような国に映るのでしょうか。多文化コミュニケーションという視点から、国際化とは何かを考えます。

【講義内容】
2回目の講義は、多文化をテーマにペマ=ギャルポ先生にお迎えしました。ペマ先生はチベット出身で、子どもの頃にインドに亡命。難民キャンプで少年期を過ごした後に来日され、日本での生活は40年余りになります。難民として過ごされた経験、チベット人から見た日本・日本人についての貴重なお話、文化、国際化に関する先生の考えなどを、とても穏やかな、でも力のこもった語り口で話して下さいました。

<チベットクイズ>
最初は、運営委員によるチベットクイズでスタート。○×クイズで、上位3名にはペマ先生から素敵なプレゼントがありました。
1.チベットの面積は日本の面積よりも広い。
2.チベット自治区の平均標高は4000M以上である。
3.チベット人の主食は米である。
4.現在のダライラマは(アカデミアと同じ)13世である。
5.ダライラマは現在インドに住んでいる。
(※正解は↓にあります。)

<生い立ち・個人史>
前半は生い立ちから、日本に来られるまでの体験談を中心に講義を聴きました。チベットの豪族の家に生まれ、裁判ごっこなどしながら過ごしていたところに、中国が攻め込んできたこと。逃げていく途中で、子どもだった自分にとって一番悲しかったのは、飼っていた犬との別れと、別れた馬が涙を流していたことだったという話。難民としてインドで過ごしたときのこと、など。大変な中を生きてこられた経験を、リアリティをもって、でもとても穏やかに語られていた姿が印象的でした。

<多文化共生・国際化について>
後半は、文化について話をして下さいました。文化は、歴史、自然、民族特有の経験、気候などから成り立っているものであり、どこに持っていってもよいというものではないこと。そこに生きた人たちの工夫の結晶であって、文化には優れた、遅れたということはないし、上下もないということ。地球市民ということを言っているが、地球全部を同じ文化に統一しようとする必要はない。様々な文化をそれぞれ大事にして、共有することが大切ということ、などなど。ご自身の体験に裏付けられた言葉が、どっしりと重みをもって心に伝わってきました。

<クイズ正解>
1.チベットの面積は日本の面積よりも広い。⇒×(チベットが独立国家だった時代の面積は日本の5倍以上。日本は38万平方キロ。チベット自治区は120平方キロだがチベット全体では230万平方キロ。)

2.チベット自治区の平均標高は4000M以上である。⇒○(旅行に行くときは高山病に気をつけましょう。)

3.チベット人の主食は米である。⇒×(ツァンパと呼ばれる小麦の粉をいためたものにバター茶を練りこんで団子状にしたもの。)

4.現在のダライラマは(アカデミアと同じ)13世である。⇒X (14世。輪廻転生が信じられていてダライラマ没後、湖で宣託を受けて探しにいくのは有名ですね。)

5.ダライラマは現在インドに住んでいる。⇒○(インドにお住まいです。)

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【受講生の感想】
・国際化が進む日本の現状についていけていない日本人。これからどうしていけばいいのか、ヒントをもらえました。「共有」「尊重」「共生」自分の意識をまず変えていきたいです。

・ご自身の半生を交えた体験から確信された共生の方法を聞く機会が持ててよかった。自分が知らなかったことがいつもながら多くてやれやれと思います。

【運営委員より】
説得力のある、味わい深い言葉やお話がたくさんあって、それぞれに心に残るお話をたくさんいただきました。日本の中にもたくさんの外国人が住むようになって、身近なところでも国際化が進んできているように思います。みんなを同じにしようとするのでなく、多様性を受け入れて、それぞれの文化を尊重することを通じて、本当の意味での国際化ができるようにならないと、と感じました。最後には、翌日に誕生日を迎えられるペマ先生に、12期生手作りの紅茶ケーキをプレゼント。忙しい中、ギリギリまで懇親会にも参加して下さり、素敵な時間となりました。

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