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地球市民アカデミア > 過去の活動 > 13期(2006年度)

国際協力、開発教育、貧困、メディアリテラシー、社会的企業、地域活性化などを、講義・ワークショップで学ぶ通年の市民講座。講師,ファシリテーターによる教材,手法,研修,セミナーの紹介。

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自分の住む街

講師:佐野淳也氏【東京学芸大学環境学習研究員(環境共育・まちづくりファシリテーター)】

内外の問題に関心を持ち、活動をしている私たちは社会の中でどこにいるのでしょう?まちづくりの取り組みを通じて、自分と自分の住む街との関わりを考えます。

【講義内容】
今回の講義は、最初に「自分が住んでみたいところ」を話し合うことから始まりました。それぞれ、自分が住んでみたい街と、その理由を考えてお互いに発表し合いました。

講師の佐野先生は徳島県出身で、学生時代海外を訪問したり、ホームレス支援をしたりしており、阪神大震災の年にはNPOスタッフとして仮設住宅にあるケアセンターでの救援活動にも参加されたそうです。吉野川ダムのことを修士論文に取り上げた頃から「環境」や「持続可能な開発」といったテーマに興味を持つようになり、それから今の仕事に至っているということでした。

続けて、「持続可能な開発」ということについてたくさん資料を見ながら説明していただきました。主に、「エコロジカル・フットプリント(エコフット)」という人間の生活を支えるのにどれだけの生産可能な土地・地域が必要かを面積で表した指標、生活満足度・平均余命・エコフットの掛け算で算出される地球幸福指標(HPI:The Happy Planet Index)をご紹介いただきました。

また国内・海外で行われている「持続可能な開発」に向けた事例として、徳島県上勝町でのゼロウェイスト運動、岩手県葛巻町のがんばらない宣言やパーマカルチャー、オーストラリア・マレーニーのCOOPや地域通貨(LETS)などを写真を交えて紹介して下さいました。

最後にはワークショップを行いました。ワークの時に挙げた街ごとに郊外~都市で4つのグループに別れ、それぞれ2025年に住んでみたい街の具体的なイメージを絵に描きました。なかなか絵が描けないグループも、どんどんイメージがふくらんでにぎやかになっていくグループもありましたが、それぞれ個性的な街ができ上がっていました。

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【受講生の感想】
・皆で意見を出しながら町を創っていくこと、とても楽しい学びになりました。

・理想の街をつくるのは、住民の私達。街をつくるのは簡単じゃないけど少しでもいい街に近づけるように、私も少しずつ何かをしよう。

行動する市民‐起業を通じて社会をプラスに‐

講師:吉岡淳氏(カフェスロー代表)

私たちは1人の市民としてどう社会に関われるのでしょうか?いま注目されているものに”社会起業”があります。「スロー」で「環境に良い」起業を実践する講師の話から、それぞれが社会をよりよく変えていく方法を考えていきます。

【講義内容】
団塊世代の生まれという吉岡さん。学生時代の思い出、競争社会の中で韓国の若者と出会ったり、仕事で世界各地を飛び回ったりした中で感じたことをはじめに話して下さいました。

ユネスコで30年間働いた後、自分の住んでいる地域から離れている自分に気付き、市長選挙に立候補したのだそうです。そのような歩みを経て、ナマケモノ倶楽部の企画でエクアドルを訪ねたのをきっかけに、地球に負荷を与えない暮らしを具体的に実践し、経験できる場としてカフェスローを立ち上げたのだそうです。

割り箸、エビ、トイレットペーパー、塩、などを買って消費することによって、貴重な白樺の成木や、天然のマングローブ林や、ユーカリの原生林を破壊している現代の私たちの暮らし。そのような自然を破壊しながら成り立っている大量生産・大量消費至上主義のビジネスではなく、環境によいビジネス・仕事を創り出していくことが必要とのこと。

最後は、スロービジネスの強みは、払ったお金の対価に見合えば人は必ず納得してくれる、ということ。コンセプトがしっかりしていれば必ず成功する、過去の価値観にとらわれずに新しいことを運動ではなくビジネスとしてやっていってほしい、と力強く締めくくって下さいました。

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【受講生の感想】
・講義前半では、自分の"買う"という行為の裏にある様々な問題について考えさせられました。後半では、自分とは無縁だと思っていた"起業"、"ビジネス"というものを身近に感じることができました。

・ビジネスと環境・人権に配慮するということを結びつける方が、人々に影響を与え、変わっていく可能性がある、というのは確かにそうだと思いました。ものを買うとき、安い、便利といったことが優先されがちだけど、生産者、消費者、地球の3つに負荷をかけない生活を考え、継続できればいい。

【運営委員より】
地域に密着して、カフェスローという場で様々な実践をされている吉岡さんのお話を受講生と共有したい、という思いで講義を企画しました。吉岡さんの歩みを語って下さった後にスロービジネスに対する強い思いを伺ったことで、現代の大量消費社会に代わるものとしてのカフェスローで実践されている仕事の意義がとても印象深く響いていたように思います。さりげなくMy箸を持ち歩いていらっしゃる姿も印象的でした。

貧困‐見えていない社会、見ていない社会‐

講師:西澤晃彦氏【東洋大学教授】

豊かな国と言われる「日本」、その豊かな日本の中に隠された貧困の実態。日本のホームレス問題を通じて、貧困がなぜ生まれるのか、その根源を問うとともに、貧困の構造をどうしたら変えられるのかについて考えます。

【講義内容】

もともとは海外のことにご関心があり、ジョクジャカルタのスラムの調査などもされていたという西澤先生。それから、ご自分の足元を調査するうちにこの領域に広がったそうです。

講義では、ひとくちに「ホームレス問題」と呼んでいる対象が、野宿者の方々に限らず、水商売の方々、今定職についてない方々など、実際は見えない領域が広いことに気づかせていただきました。また、社会から徹底的に締め出されてしまう野宿者の方々をとりまく社会環境、またその隔離の過程が、住居と家族・職業によって国民を把握する明治維新後の改革からの流れを汲んでいること、その流れから非家族・非定住・非組織層を排除する社会構造が連綿と受け継がれているということを話していただきました。

非家族・非定住・非組織という層が増加しつつある昨今、この社会の、それらの層に対する排除のあり方がいつまで通用するか。わたしたちはどう考えるか、国家は、排除していた「例外」に対する例外法的措置をどこまでとっていくのか、という鋭い投げかけをしていただきました。

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【受講生の声】
・排除された人間、人間の選別・線引きって、何だろうと考え始め、それが前提・当たり前だと思う人たちが押し付けている結果なんだなと思った。そういった排除されていかざるを得ない社会を創ってしまう、線を引く、心理的な貧困でいうと、この社会こそが最も貧しいのではないかと思いました。

・うわべを取り繕うため、日本の構造や制度によって生まれた、日本の見えてない部分。本当に今まで私は見えていなかった。日本の制度には疑問や矛盾を感じた。講義を受けるたびに、他の国のことだけでなく、逆に日本の問題について考えさせられる。もっと見えてない部分を見られる人になりたい。

【運営委員より】
このテーマは毎年のアカデミアで恒例のテーマとなっています。
「貧困」というとアジアやアフリカの国々に目がいきがちですが、経済的には豊かなはずの、身近なところの「貧困」は場合によっては目に見えない形をとってしかも根深く、根強く存在している。

その存在を認識し、そして我々はこの「貧困」に対してどう関わっていけばいいか、という命題が、各受講者の皆さんの胸にも響いたと思います。限られた時間で、とても中身の濃い講義をしていただきました。

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